「普通の」人のためのFIREケーススタディ
FIREケーススタディシリーズ第二回目は、31歳でセミリタイア(CoastFIRE)を決行した米国人のChaseさんを紹介したいと思います。FIREムーブメントのコミュニティはその性質からか、西海岸の高給取りのプログラマーが質素な生活をして鬼のような速度でアーリーリタイアする、といったようなモデルケースが目立ちますが、今回はもっと「普通の」年収でセミリタイアを達成した人の話を紹介します。
FIREケーススタディシリーズ では既にFIREを実際に達成した人はどんな人生を送っているんだろう?という問いに具体的に答えるために、FIRE達成後の暮らしをコミュニティのメンバーに個別に焦点を当てて紹介していく記事を書いてます。第一回目では34歳でFIREを決行したプログラマーについて書いていますので是非こちらも読んでみてください!
Chaseはアメリカのノースカロライナ州で数学と物理の高校教師を9年間勤め、2018年に3,000万円を投資資産として貯めた後に31歳でセミリタイアを決断したそうです。教師としての仕事を辞めた今はDoorDash(ウーバーイーツのようなデリバリーサービス)等でギグワークでの配達の仕事をしながら生活しているとのことです。
Chaseは自身のYouTubeチャンネルで(かなり不定期ではありますが)FIREの計画について語ってくれており、さらに Murphy on Moneyというポッドキャストのインタビューの中で自分の身の上を話しています。本記事ではそれら中からChaseのFIREのための計画と、実際にセミリタイア生活を2年ほど送ったうえでの学びをまとめてみました。

from Coast Fire 5 month update
CoastFIREとは何か?
以前の記事でも紹介した、FIREの亜種であるCoastFIREですが、これは伝統的なリタイアメントの歳になった頃には生きていくために十分な資産形成が完了している程度の投資資産を貯め、あとはその資産に触ることなく、給料の低い負荷の少ない仕事をして生活費だけ稼いで生きていくというFIREの方法です。
Chaseの場合では、30歳の時点で3,000万円程の投資資産を貯めたので、あとはそれに触れずにギグワークで得たお金だけで生活をし、資産が増えていった後にはギグワークすら必要がなくなり、投資資産だけで生きていけるようになるもいう計画です。Chaseの投資資産3,000万円がこの後どのように増えていくのかを下の表に試算してみました。
上記の表の通り、3,000万円の元資産が年間平均5%(インフレ調整後)増えていくことを仮定してみた場合、22年後53歳の時点で8,766万円までに成長していることが分かります。これは以前の記事でも書いた通り、60年という長期の退職期間があったとしても98%の確率で資金が底をつくことはないはずの3.5%の引き出し率に対応できる金額です。つまり、Chaseはこのままセミリタイアを20年ほど続けた後、53歳になったら完全にお金を稼ぐことを止めてしまっても大丈夫な状態に達するということです。
普通の年収でもFIREは夢ではないという好事例
Chaseのケースが参考になるところは、彼がほかのFIREムーブメントの著名人のように高給取りではなかったというところですね。前のケーススタディで紹介したBrandonの場合はプログラマーと医者という異次元カップルでしたが、Chaseの場合では、夫婦二人とも平均給与は米国の中でも下から数えた方が早いノースカロライナ州(ウィキペディアの情報によると56中の41番目)の高校教師ということで、お給料もそんなに高くはありません。彼自身の年収はピーク時で450万円(45,000USD)程度、二人合わせても 1,000万円(100,000USD) を超えたことはなかったとポッドキャストの中で話していました。
そんな状況でもChaseが若くしてセミリタイアできた秘訣としては、やはり早くからパートナーと二人で生計を一にしているのが大きいとのことでした。人生というゲームを二人プレイモードで攻略していくようなものだとポッドキャストの中で語っていましたが、これは本当に同感です。二人で暮らせば収入は倍近くになる一方、家賃や光熱費等は同じく2倍になることはあまりなく、結果として貯蓄率を大きくあげることができますからね。やはりDINK最強説がここでも出てきましたが、恋人をFIREの目的のためだけに探すのではなく、友人とルームシェアしてみたり、しばらくは実家に住まわせてもらう等で生活費を下げる工夫をしてみてもいいと思います。
セミリタイア後の生活はどんな感じ?
教師としてのフルタイムの仕事を辞めた後には、前述した通りデリバリーなどのギグワークで生計をたてているとのことです。時給は1,200円から1,400円ぐらいにはなるそうで、週に10~20時間程度働いているとのことでした。年間の支出は300万円程度とのことなので、一人当たり年150万円、1日にすると4,000円ぐらい稼げれば良いぐらいだと気楽に構えているようでした。
2020年の7月に最新のアップデートをしてくれているビデオでは、彼は6時間以上連続して働くことと、2日を超えて連続で働くことはしていないと話しています。この二つのルールを適用することによって、毎週発生する連休明けの憂鬱な月曜日状態を避けることができているとのこです。最初のうちは週4日連続で働き、そのあと毎週3連休という形態をとっていたようですが、毎週休みモードから仕事モードに切り替える必要があるのが嫌だったと言っています。(その気持ち、非常にわかります。)
現在は水、木、日曜日が休みとのことですが、普通のスケジュールで働く人にとっては毎週水曜日を休みにしているようなものでしょうか。さらにその上で働く日も6時間以上になることはないということなので、本当に羨ましい限りです。
また、冒頭のYouTubeのビデオで語られていることのなかで無視できないのが、週に10〜20時間働くようになったことで、仕事をすること自体は嫌いではなかったということに気づいたということでしょう。週5日40時間も決まったタイムスケジュールの中でひたすら働かなければいけないのであれば、仕事の内容が何であれ嫌になってしまうというのは多くの人が体感していることでしょう。そういう意味で、フルタイムの仕事からChaseのようにもっとリラックスしたスケジュールで働けるスタイルに切り替えるというのは、FIRE達成までの長い道のり「Boring Middle」を乗り越える上で有効かもしれませんね。
CoastFIREを選択肢の一つとして考える
Chaseの実行しているCoastFIREでのセミリタイアというアイディアにはとてもそそられるものがあります。Chaseと同じ金額である3,000万円ならば、僕ら夫婦の場合あと5~6年あれば達成可能な金額だからです。今のFIREの計画ではあと10年ぐらいはフルタイムで働く予定だったので、その期間を半分にカットできるのは非常に魅力的です。
ただし、Chaseのようにギグワークで生計を立てていくことが有するリスクについてはしっかり考えておく必要があるとも思います。セミリタイアするとは言え、今後まだ15-20年と生活できるだけのお金を稼ぐために働く必要があるのですからね。特に今回のコロナ禍は雇用の安定性というものが大きく揺さぶられた例であり、正社員でない立場で生きていくことがいかにリスクの高いやり方であるかを身につまされるイベントとなりました。(もちろん場合によっては正社員すら安定しているとも言えなくなるとは思いますが。)
とはいっても、このCoastFIREを選択肢の一つとして持っておくというのは、もしものための武器としては非常に有用ではないかと考えています。これから5,6年後に自分の職業の存続性が危うくなってしまうことは十分に考えられますし、職場環境、人間関係が劣悪になってもう我慢できない!なんて状況に陥っている可能性も捨てきれません。そんな時にはいっそフルタイムでの仕事を辞めてしまい、Chaseのように気ままに働ける環境を探す、という道が残っていることを頭に入れておくのは精神衛生上良い手立てでしょう。何度も言っていますが、フレキシブルに考え生きていくのが重要ですね。
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