コロナでFIREムーブメントは終わったのか?

FIREムーブメントはここ数年海外の主要メディアだけではなく、日本でも日経新聞を筆頭に様々なメディアに取り上げられていることから、ある程度の注目を集める「ムーブメント(運動)」になったと言えるとも思います。ただそうしたメディアではFinancial Independence【経済的な独立】というよりは、極端な節約術に焦点が当たっていたりと、面白おかしく話題にされているという感じはあります。

今回のコロナパンデミックの渦中にあってもそんなメディアの追撃からは逃れられないようです。僕が確認しただけでもNew York Times やCNBCといったメディアで、コロナがFIREムーブメントに与える影響について考察する記事が公開されています。

New York Timesの記事:They All Retired Before They Hit 40. Then This Happened.

CNBCの記事: 39-year-old retiree shares how the coronavirus pandemic will change the FIRE movement

どちらもFIREをした人の例を挙げ、彼らのポートフォリオがいくら減ってしまった!というような不安を煽るような書き方をしています。今回の株価の大幅な変動で、もうFIREムーブメントはダメかもしれないという様な印象をつけようとしている感じを受けます。こういう現象を見ると毎回やれやれと頭を振りたくなる一方で、今年2月からこれまでのボラティリティに溢れた市場の動向をみていると、確かに不安を覚えたくなる感情も認識しなくてはならないとは思います。

上に挙げたNew York Timesの記事を読んでみると、その中では最近FIREに踏み切った人が数名取り上げられていますが、彼ら自身はセンセーショナルなタイトルとは少し方向性の違う見方をしている印象を受けます。FIREを広めた第一人者の一人であるMr. Money Mustacheはこの記事のためのインタビューを受けた際に、「焦ることはない」と模範的なFIREコミュニティの回答をしたけど、記事の中ではほとんどカットされてしまったとTwitterでこぼしていました。(そのツイートはこちらです

やはりここでもメインストリームメディアとFIREコミュニティとの間での温度差というか、考え方の乖離を窺い知ることができますね。

結局FIREムーブメントはもうだめなの?

もっと実際的な問いに戻りましょうか。やはりFIREムーブメントは終わってしまったのか?FIREとは結局ここ10年間のアメリカ市場の驚異的な成長の熱気にほだされたミレニアル世代の夢でしかなかったのか?という問いです。

単刀直入な回答をするならば、そんなことは全く無いというのが正直なところです。FIREを成り立たせるFinancial Independenceという概念は、直近の10年とか30年というような期間の市場の動きを都合よく拡大解釈したものではなく、100年にのぼる株式市場とインフレの数字を考慮した研究の結果(4%ルール)に基づいているのです。(最近の研究では3.25%ルールという方が安全であるという全体的な了解もあるとは言え)

つまり、投資資産から毎年4%を引き出して使っても基本的には枯渇することはないというSafe Withdrawal Rate(4%ルール)というのは、今回のような市場の急落も想定した上での試算に基づいているということなのです。

ですのでFIREで既にリタイアした者は気にせずにリタイアし続ければ良いし、僕のようにFIREを目指す者も黙って倹約し、投資資産を増やしていくだけなのです。もちろん現状に不安を感じるのであれば、さらなる節約に努めたり、元々の投資資産目標額を高くしてみたり、仮にもう一度リタイアしていても、安心できる資産レベルに達するまでもう一度働きに出たり、といった対策を取れば良いのです。そもそも前もって6ヶ月~1年分ぐらいの生活費をキャッシュで保有しておく「Emergency Fund」を持っておくことで、投資資産を一番の底値で切り崩すという最悪の事態を避けることができます。 何事もフレキシブルに考えることが大切だと思います。

今の状況下での僕の投資姿勢についてはこちらの記事にも書いておりますのでご覧ください。

今だからこそ目指すべきFinancial Independence

今回の一連のコロナ騒動で、FIREへの想いは逆に一段と高まりました。僕はFIREの中でも前半のFI、つまりFinancial Independence【経済的な独立】の方が特に大切だと思っています。

このような状況下でも、世の中の企業はテレワークの環境を導入できていないとか、そもそも在宅での仕事が成り立つ職種ではないとかで、結局満員電車に乗って普段と変わらず仕事に向かわなければならない人も大勢いると思います。FIを達成しない限り、生活がかかっているからと会社の要求に黙って従うしかないのです。

雇用の安定性も今回改めて意識するようになりました。平時ではうまくいっているような企業でも、今のように非常な事態に直面し経済がストップしてしまうとしたら、産業自体が大きなダメージを受けてしまう可能性は大きくありますし、現時点でそのリスクは現実のものにもなっています。そうなると最悪の場合、会社が倒産してしまうとか、解雇されてしまうなど、そもそもの収入源を断たれてしまうことすら実際にあり得ます。これらのことさえもFIさえあれば気にしなくていいものです。経済的な自由を手にするということは、自らの生き方に対してのコントロールを取り戻すということなのです。

Sequence of Return Riskに気をつけよ

一点だけ気をつけなくてはならないことがあるとすれば、それは以前の記事でも触れたSequence of Return Risk(投資のリターンが発生する順番に伴うリスク)です。運悪くリタイア直後の10年間のリターンが悪いと、4%ルールに従ってもリタイアが失敗してしまう可能性が高くなるという話ですが、今回のコロナ影響によるクラッシュがリタイアした瞬間に訪れたのなら少し心配すべきなのは確かな話です。僕のようにFIREを目指しているものにとっては、資産形成を始めた直後のマーケットクラッシュは今後の資産形成に関して逆にポジティブな結果をもたらしますが、稼ぐことをやめたリタイアリーのとっては恐れていた投資リスクが具現化したものでしかありません。つまり、2020年2月はリタイアのトリガーを弾くには最悪のタイミングであったのかもしれないのであり、なるべくならリタイアするのは避けたい時期であったということになります。

ただ、市場を読むなどということはインデックスファンドへの投資を決めた時点で放棄した考えのはずであり、もちろんそんなことを試すことすらFIREコミュニティはオススメしていません。しかし、リタイアに適したタイミングを選ぶことが全くの暗闇の中での賭けになってしまうのかというと、そういうことでもないようです。FIREコミュニティでは「とある経済指標」を用いることで、ある程度はリタイアするタイミングの安全性を推測できるのではという話もあります。FIREのトリガーを引く時期というのはもちろん僕にとっても重要な話になりますので、今後詳しく記事にしたいと思います。

それではみなさん、どうか引き続きお気をつけてお過ごしください。”Wash your damn hands! ”

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