Sequence of Return Riskとは?リタイアの4%ルールが失敗する時

まとめ

Sequence of return riskとは、投資のリターンがどのような順番で発生するかにより、リタイア後の投資資産に影響するリスクのことです。ある期間のトータルリターンが同じでも、リタイア直後に市場が急落してしまうと4%ルールが成り立たなくなってしまうという、FIREで早期退職を目指す人は認識しておかなければならないというリスクです。

前提知識:4%ルールって何?

リタイアの4%ルールとは、年間支出の25倍をアメリカ市場を主としたインデックスファンドでの投資資産として保有することで、その4%を毎年引き出して使っても30年間は資産が尽きるとこはないという理論です。元々は1990年代までのアメリカ株式市場のリターンを元になされた研究の成果ですが、以前の記事で紹介したようにForbesのこの記事によると2017年までの市場のリターンでは30年間で98%、そしてEarly Retirement Nowというサイト(以下ERN)の研究では2016年までのデータで、60年間の退職期間があっても89%の成功率があることが分かっています。

僕はこれらの結果をポジティブに捉えています。僕のように35歳あたりでセミリタイアすることを考えている場合には、上記の60年間の退職期間が想定され、89%の成功率に賭けるということとなります。僕はセミリタイアということで、完全にお金を稼ぐことをストップしようとは考えていないので、89%の確率でうまくいくのならと結構楽観的にこの結果を捉えていますが、逆に考えると約10%の確率でリタイアが失敗に終わるという見方もできます。このように考えると不安に思う方もいるでしょう。今回はリタイアの4%ルールが失敗する場合はどんな時なのかというのを見ていきたいと思います。

4%ルールが失敗するとき

ERNのこちらの記事によると、4%ルールが失敗する例の64%はSequence of Return Riskによって説明がつけられるとのことです。Sequence of Return Risk とはなんのことでしょうか?Sequenceは訳すと順序、順番といった意味なので、「リターンが発生する順番が持つリスク」といった感じです。どういうことかというと、例えばある期間の平均リターンが10%だとしても、株式市場というのは毎年コンスタントに10%ずつ拡大していくものではありません。ある年に10%下がることもあれば、2019年のように30%も上昇することもあるということです。このリターンの順番が仕事を辞め投資資産を切り売りして生きていく段階に入った時にどうなるかが、4%ルールの明暗を分けるということです。

ひとつ試算をしてみましょう。二つのシナリオを想定します。5000万円の投資資産があり、年間200万円(最初の総資産の4%)を毎年引き出して使うことにします。わかりやすくする為に期間を5年間にし、 一方は最初の2年で市場が悪くなってしまったものの、最後の2年で回復した場合 (ケースA)、もう 一方は逆に最初の2年間で市場が大きく成長し、最後の2年で下がってしまった場合 (ケースB)を想定します。どちらも5年間の平均でならすと7%の成長をしていますが、この間毎年お金を引き出しているとなると、最終的な結果は以下のようになります。

毎年200万円を引き出した結果
最初の2年で市場が上昇したBの方が5年後には約500万円も資産が多くなる

表の通り、最初の2年でポートフォリオの金額が上がったBのケースの方が、Aのケースに比べ5年後の資産が500万円近くも大きいという結果となりました。まだ総資産が大きい最初の2年間のうちに引き出し率を上回る利回りをあげればポートフォリオがより大きくなるというのは至極当然なことですが、このように実際の数字で確かめてみるとよりリタイアのタイミングの重要性に対する実感が湧いていいですよね。

Sequence of Return Riskを実際の市場に当てはめると?

さらにERNはこのことを実際の過去の市場に当てはめて実証してくれています。下の表はこちらのERNの記事のものですが、(1)1955年10月(2)1968年12月(3)1979年3月の3地点でリタイアをスタートしてからの30年間を示してます。

EarlyRetirementNowの記事より
三地点からの安全な引き出し率を検証

非常に興味深いのは、(2),(3)の30年間でのトータルリターンはどちらも年間約6%と変わっていないのに、安全な引き出し率は(2)の方は3.8%と4%を割ってしまっていているのに対して、(3)は9.12%ととてつもなく高いパーセントを示しているところです。中身を確認してみると、やはり、4%ルールがうまくいかなかった(2)の例では最初の10年間のリターンがマイナスであり、(3)は最後の10年間はマイナスであるものの、最初の10年間は順調な成長をみせていたということです。

Sequence of Return Riskにどう対応するべきか

以上、本記事ではリタイアの4%ルールが失敗する時にどんなことが起こっているのかを確認しました。リタイア後の最初の10年間の市場がどのようなパフォーマンスを見せるかが4%ルールの明暗を分けるという結論になりました。つまり、市場のピークでリタイアのトリガーを引いてしまうと、その直後に株価が下がってしまい4%も引き出す余裕がなくなってしまう可能性が高いということです。

では、このSequence of Return Riskを回避する為にはどうすれば良いのでしょうか。二つ思い浮かびます。

まずひとつ目は、FIREの目標額を達成した後も、2-3年働いて資産に余裕を作るということです。ギリギリ年間支出の25倍の資産を貯めてリタイアすると、その直後のリセッションに耐えきることができないかもしれません。そこでさらに資産を増やし、引き出し率を3-3.5%まで持ってくることができれば、下のERNの表が示す通り、60年間の退職期間でも98-100%の成功率を期待することができます。3%の引き出し率で200万円の年間支出を賄える額というと、6667万円です。当初の5000万円からはだいぶ遠くなってしまってはいますが、2-3年長めに働くことで今後の資金面での不安を払拭できるのであれば全然構わないという人も多いのではないでしょうか。結局リタイアの4%ルールではなく、3.25%ルールというのが正しいのかもしれませんね。

EarlyRetirementNowの記事より 
3-3.5%なら60年間でも高い成功率

二つ目は、やはり完全にリタイアするのではなく、お金を稼ぐ手段を考えておくという案ですね。僕のプランは今のところここにあたります。フルタイムでやっている今ほどではなくていいので、何か自分が楽しみながらお金を稼ぐ方法を探そうと思っています。年間50万円でも何かしらの方法で稼ぐことができれば、結局引き出し率は格段に下がり、3%の安全な数字でやっていくことも可能です。もちろんFIREの段階に到達した時点でいつもの仕事をどれぐらい楽しめてやっているかもここの判断には影響してくるとは思いますけどね。

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